【宇土市走潟町】齊藤農園 齊藤栄一郎さんのお米
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米づくりは、国づくり。
宇土市走潟町・齊藤農園 齊藤栄一郎さん
熊本県宇土市走潟町。緑川と浜戸川に囲まれた田園のまちに、
静かに風の音が響く田んぼがあります。
そこで稲と向き合うのが、齊藤農園の齊藤栄一郎さん。
耕作放棄地だった土地を再び田んぼとしてよみがえらせ、
地域とともに歩む米づくりを続けています。

土地の力を信じて
走潟の田んぼは、用水が届かない区域にあります。
そのため、齊藤さんは**地下水を汲み上げて灌漑(かんがい)**を行っています。
「水をどう確保するかが、この土地ではいちばん大事なんです。
でも、地下水は冷たくてきれい。
稲がしゃんとして、味が良くなるんですよ。」
自然条件に頼るだけでなく、状況を読み取り、
日々の管理で田んぼの呼吸を整える。
そんな“観察と手間”が、齊藤さんの米づくりの要です。
“苗半作”という言葉の意味
齊藤さんが大切にしているのは、昔から農家の間で伝わる言葉——
「苗半作(なえはんさく)」。
苗づくりがうまくいけば、その年の収穫の半分は決まる、という意味です。
「目に見えない準備が、米の出来を決めるんですよ。
草を取るのも、水を切るタイミングも、ぜんぶ“地味な仕事”ですけどね。」
除草剤は最小限。草が出れば手で抜く。
中干しの時期には一度水を抜いて、根を強く育てる。
その一つひとつを丁寧に積み重ねることで、
稲が本来持つ力を引き出していきます。

子どもたちの未来へ
齊藤さんの米づくりには、もう一つの願いがあります。
それは「地元の子どもたちに、自分の田んぼで育ったお米を食べてもらうこと」。
「学校給食で出せたらうれしいですね。
お金のためじゃなくて、地域の子たちに“自分たちの土地の味”を知ってほしい。」
直接的な農業体験を行っているわけではありませんが、
地域の行事や日常の中で、子どもたちと関わる機会を大切にしています。
田んぼの話をしたり、稲穂を手に取って見せたり——
“食べものの原点”を伝えることが、
未来への一番の贈り物だと感じているのです。

未来を見据えた挑戦
近年、世界的な資材価格の高騰や気候変動など、
農業を取り巻く環境は厳しさを増しています。
そんな中でも、齊藤さんは静かに、次の一歩を見つめています。
「いずれは無肥料でも育てられるようにしたい。
もし肥料が入ってこなくなっても、
この土地の力で米をつくれるようにしておきたいんです。」
それは、経済ではなく**“自立した食のあり方”**を見据えた挑戦。
米づくりを通して、地域が生きていく力を取り戻すための実践です。
米づくりは、国づくり。
この言葉は、齊藤さんの信念そのもの。
「米は、日本人の暮らしの真ん中にあるもの。
稲を育てるっていうのは、国を育てることなんです。」
自然と向き合い、仲間と支え合いながら、
目の前の田んぼを耕すその姿は、
地域の未来を静かに照らす“灯”のようです。
今日も走潟の風に、稲穂がサワサワと揺れています。
その音は、きっと齊藤栄一郎さんのまっすぐな生き方の響きです。

【齊藤農園】
所在地:熊本県宇土市走潟町
生産者:齊藤栄一郎
栽培方法:減農薬・地下水灌漑
特徴:耕作放棄地を再生し、地域とともに育むお米
想い:「地元の子どもたちに、自分たちの土地の味を届けたい」